大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和37年(ラ)175号 決定 1962年11月08日

抗告人 瀬内寛三

主文

本件抗告を棄却する。

ただしし原決定中の「瀬内文子」を「瀬内文子こと瀬内昭二」と更正する。

理由

一、抗告の趣旨及び理由は、別記のとおりである。

二、抗告人が抗告理由において主張する事実の一部及び抗告状添付の証明書並びに本件記録によれば、抗告外瀬内昭二は、昭和三七年九月二五日午前九時開始の本件競売期日において、平野又好、柴田某と最高価競買申込人となることを競争し、瀬内昭二においてその妻瀬内文子名義で最高価金四、〇一六、〇〇〇円をもつて競買を申し込み、よつて最高価競売申込人となつたこと、瀬内昭二は瀬内文子の有権もしくは無権代理人として競買を申し込んだものではなく、また自己が瀬内文子(という氏名を有する女性)本人であると自称して競買を申し込んだものでもなく、福岡市北湊町七六番地に実在するその妻瀬内文子の氏名をたんに借用して競買の申し込みという執行法上の行為をなしたものであることが認められ、これに反する証拠はない。右のような場合、すなわち、最高価競買申込人が瀬内文子という女性でなく、瀬内昭二という男性であることを知り、または知りえた競売実施者たる執行吏としては、不動産競売調書には当然最高価競買人の氏名を瀬内昭二と記載し、かつ、同人に署名押印させるべきであるのに、原裁判所所属執行吏の作成にかかる不動産競売調書を見るに同調書には、たんに最高価競買人瀬内文子と記載されているのみで、瀬内昭二という男性の氏名は全く表示されずに、かえつて、瀬内昭二をして右競売調書に福岡市北湊町七六番地瀬内文子と記載させ、その名下に押印させているため、原裁判所は右の瀬内文子なる者に対し競落許可決定を言い渡したことは、記録上明らかである。

ところで、甲が乙の氏名を冒用し乙名義の委任状を偽造し、甲自身または第三者が乙名義で最高価競買の申し込みをなし、執行吏ないし裁判所がこれに気付かないで裁判所が乙に対し競落許可決定を言い渡したときは、同決定の効力は甲ないし右の第三者に及ばずして乙のみに及ぶので、抗告利益を有する利害関係人は、即時抗告をなして、右決定の取消を求めうるけれども、甲が乙の氏名を冒用して最高価競買の申込行為をなす場合においても、その申込行為が甲の行為としてなされ、従つて競落許可決定が乙の名義を借用したに過ぎない乙こと甲に対し言い渡されたときは、同決定の効力は甲に及ぶも乙に対して及ぶものでないと解するのが相当であるから、右決定が乙に対し言い渡されたとしてその取消を求めるための即時抗告はなしえないといわなければならない。

右説示するところを、前段認定事実に照らして考えると、本件の最高価競買申込人、したがつて原裁判所が競落許可決定を言い渡したのは、瀬内昭二であつて、瀬内文子ではないというべきである。所論はこれに反し、競落人が瀬内文子であることを前提とするもので採用に値しない。

よつて抗告を理由なしと認め主文のとおり決定する(もつとも前説明のとおり原決定中瀬内文子とあるのは、瀬内文子こと瀬内昭二の明白な誤記と認められるので更正する。)

(裁判官 池畑祐治 秦亘 平田勝雅)

別紙

抗告の趣旨

本件競売許可決定は之を取消す

との御裁判を求める

抗告の理由

一、債権者伊藤祐可債務者瀬内寛三間の福岡地方裁判所昭和三十五年(ケ)第三九二号不動産競売事件に付該競売期日が昭和三十七年九月二十五日午前九時と指定せられ福岡地方裁判所の競売場に於て執行吏中村市太郎に依つて同日競売が実施せられたるものであるが其の競売に於て該不動産が最高価金四百二十万円を以て競落せられたるものである

二、而して其の際の競落人は瀬内文子とせられたるもので之を以て福岡地方裁判所は昭和三十七年十月一日の競落期日に於て右瀬内文子に対する競落許可決定が為されたるものである

三、然しながら右瀬内文子は右競売当日前記競売場に出頭したる事実なく右競売については申立外瀬内昭二が多数競売申込人と競争して価格の申出を為したる結果最高価金四百二十万円を以て競落したものである

依つて瀬内昭二に於て競落調書に競落人として同人と氏名を記載すべきであるに拘らず同人は其の妻瀬内文子の氏名を記載して恰も瀬内文子が競落したるものの如く形式を整えたものである尚右競落に付いては瀬内昭二は瀬内文子の競落に関する委任を受けていないもので従つて其の委任状も提出していないものであるから前記競落は本人の実在しない無効のものである

四、然るに拘らず競売裁判所は此の事実を調査することなく漫然競落調書のみを基礎として競落許可決定を為されたるは違法であるから当然該競落許可決定は取消さるべきものと信ずるにより本件抗告に及びたる次第である

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例